第二幕
開演
A
「それでは、入学式を開会致します」
入学式は二つの体育館で、同時に始まった。第一体育館では副会長の冷徹な声が響き、第二体育館では議長の慇懃な声が響いている。式は滞りなく進行し、第一体育館では一足先に、会長挨拶が執り行われようとしていた。
新生徒会長・
「す、すみませんっ!」
粛々とした会場に、今日初めて、ざわめきが生まれた。静寂を求めるように、ステージの脇に控えた副会長が咳払いをする。静寂を取り戻すには至らなかったが、赤面する泉を正気に戻すことはできたようだ。とはいえ、彼の緊張がほぐれたわけではない。
「あ、新しく生徒会長になりました、
手が震え、声が震える。文字を追えているのが、不思議なほどだ。
「朝の挨拶を始め、校内の巡回など、生徒会の枠組みを越え、僕にできることを精一杯、行っていきたいと思っております。もちろん、生徒会長としての役目も怠ることなく、最善を尽くしてまいります」
徐々に緊張がほどけてきたか、言葉を発するに従い声の震えは収まり始め、芯を捉え始める。その様に副会長は安堵の息を吐き、中指で眼鏡を持ち上げた。その目で、会場を見渡す。
やけに空気が、圧迫されている気がした。
第一体育館では特進科と英語科の入学式が行われており、新入生はもちろん、少数の保護者・在校生が出席している。後方、在校生が立ち見している場所では、
副会長は会場に目を向けたまま、耳を押さえる。電波の向こうで、誰かが話していた。しかし、イヤホンを押さえても聞き取れず。もう一度話すよう促すために、マイクを口に当てた。どうした。そう聞くより先に、豪快な音をたて、前方の扉が開いた。
「なんだ」
そこには逆光に顔を隠した一群が、大きな影を形成していた。
ざわめきが、大きくなる。
正義感にかられ、一人の教師が立ち上がる。式の途中だと言って追いやろうとするも、右手一つで退けられる。
はっとして、副会長は会場を再び視線を巡らせた。扉は開けておくよう、言い付けていた。
「おいっ!」
「うるせぇ!」
大声に続いて、衝突音が響く。ざわめきが一気に広がり、数名の生徒が悲鳴と共に立ち上がった。一人の新入生が一歩退き、反動で椅子が倒れる。背を向け、入り口に向かって走り出す生徒もいた。椅子に座ったまま、目を丸くして一部始終を追う生徒も。
そのすべてに顔をニヤつかせ、教師を押し倒したライダース姿の男子生徒が、威風堂々と突き進む。向かう先は、ステージ。彼らは一丸となり、ライダース姿を先頭に、ぞろぞろと進行を開始する。その勢いに会場は圧され、椅子が擦れる音が駆け巡る。
ライダース姿の男子生徒が、足を止めた。見上げる先では副会長が立ちはだかっていた。睨み合う二人の間に、ジャージ姿の男子生徒たちは割り込む。
そんな不届き者たちを目に色めき立つ在校生の中で、
「ねえ、これって、不味いんじゃないかしら」
「そうやな」
「だからって、俺らにできることはねぇだろ」
副会長はジャージ姿の波にいよいよ飲み込まれ、造られた花道をライダースは闊歩する。そのまま怯える
「頂いていくぜ!」
引きちぎるように、バッジを奪った。弾かれて、泉は盛大に尻餅をつく。遠くで見守っていた
勢い任せに掴まれたマイクのコードが波打ち、スタンドがステージから転がり落ちる。ハウリングで、会場に静けさがもたらされた。
「これで俺が生徒会長だぁぁあああ!!」
響き渡る宣言。雄叫びにも似た歓声。ステージ上は揺らぎ、観客と化した新入生たちは状況が飲み込めずに、呆然と事の顛末をただ眺めていた。
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